【戦争と生理の貧困】 難民になったウクライナの女性たちに今起きていることとは?
ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まってから1年が経ちました。(2023年2月時点)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウクライナからヨーロッパへ避難した難民の数は800万人(2023年2月時点)を達し、戦後のヨーロッパで最大の難民危機だと言われています。女性や子供を中心に今も多くのウクライナ難民が、少しでも安全な環境を求め命からがら避難を続けています。
難民となったウクライナの人々は、家から遠く離れた場所で避難生活を送ることを強いられます。そのような状況のなか、難民へのある深刻な負担を心配する声が上がっています。
それは、難民となった人たちの「生理の問題」です。
毎月10代から50代の多くの人が生理を経験し、1ヶ月のうち、おおよそ3〜7日間の生理期間を過ごします。人によっては生理痛を伴うこともあるので、痛み止めが手に入りにくい状況では、日常生活に大きな支障をきたしてしまう人もいます。
避難所で暮らす難民にとって、このようにひっ迫した状況下では自分の生理を心配する余裕などなく、急に生理がきても、十分な生理用品へアクセスが保証されていないのが現状です。
生理用品でさえ手に入れることができない難民
これまでにも、アフガニスタン、シリア、南スーダン、レバノン、ミャンマーなどの紛争地域で、さまざまな団体や機関が人道救助にあたってきました。
難民救助の経験をもつ専門家たちは、今回のウクライナ難民の状況をどのように見ているのでしょうか。
激しさを増すロシア軍の攻撃のなか、国内退避を決めた難民の状況について、イギリスの公益財団法人であるBloody Good PeriodのRachel Grocottさんは、
「戦争で母国を離れなければいけなかった人たちの多くは、全ての必要なもの持っていくこと、あるいは、前もって準備することなどできなかったでしょう。これは緊急事態です。(筆者翻訳)」(Grocottさん)
引用元:What happens when you get your period during a war? | The Independent
「生理用品が販売されていたとしても、高価で販売されている場合が多く、人々は食糧などの必需品と生理用品のどちらかを選ばないといけない状況に置かれています。(筆者翻訳)」(Grocottさん)
引用元:What happens when you get your period during a war? | The Independent
難民の多くの人は、持てるだけの荷物を所持するよう指示されているそう。本来は必需品であるはずの生理用品を持っていくことさえ困難であり、生理用品なしで何日間も避難・移動を続けなければならない人も。店は閉まっていることが多く、避難をしている人の多くは食糧以外の商品を買える収入もない状況だと言います。
国連女性機関の事務局長であるBarnettさんは、生理用品は決して「ぜいたく品」ではないと強調します。食糧や水、薬が「ぜいたく品」とは呼ばないのと同様に、生理用品も人々が人間らしい生活を送るために欠かせないからです。
「生理用品が手に入らない状況というのは、生命を脅かすことにつながりかねません。水や衛生的な環境がないことは『直接的な戦争による死よりも恐ろしいこと』なのです(筆者翻訳)」(Barnettさん)
引用元:What happens when you get your period during a war? | The Independent
難民の生理用品へのアクセスを確保し、人々の健康と尊厳を守らなければならないと専門家たちは注意を呼びかけています。
多くの紛争地帯で報告されてきた、生理の貧困問題
世界中の女性支援を行うイギリスの団体Global Oneの調査で、シリアとレバノン難民の6割は下着が手に入らず、さらに、その多くが生理中に必要な生理用品を手に入れることができなかったと回答しています。そして深刻なことに、半数の人が尿路感染症(UTIs)にかかっていたことが明らかになりました。
「難民女性たちが古い布切れや、苔のかたまり、マットレスの一部を生理用品の代用にしていたという報告を受けています。それに汚れた水や不衛生な環境が加わることで、感染症や他の健康問題につながっています(筆者翻訳)」(Harrisさん)
引用元:What happens when you get your period during a war? | The Independent
清潔な生理用品が手に入らない状況では、衛生状態が保たれにくいために、感染症や合併症にかかりやすくなります。また、多くの人が生理に関する基礎的な衛生知識がないために、難民コミュニティ全体にも悪影響を及ぼしています。
Bloody Good Periodの教育プログラムマネージャーであり、レバノンの難民キャンプで働いた経験をもつTerri Harrisさんは、生理用品の不足は難民のもっとも大きな不安の1つだといいます。
また、衛生環境の観点以外にも、戦争という精神的に不安定になりやすい環境では、月経異常に悩まされる人が増加します。
「戦争中とは明らかに深刻なストレスの多い環境であって、月経異常が起こりやすくなる可能性があることです。月経異常によって、さらに生理が重くなり、生理痛がひどくなったり、生理不順になることがあります。それにはより多くの生理用品が必要になるでしょう。(筆者翻訳)」(Barnettさん)
引用元:What happens when you get your period during a war? | The Independent
「生理のタブー視」は避難所にも影響
食糧や衣服をはじめとする様々な物資が世界中から送られるにも関わらず、生活必需品である生理用品は考慮されず、多くの場合は見過ごされてしまうようです。
「生理用品は考慮されない可能性が高いでしょう。難民の大半が女性なので、需要はとても大きいものなのですが。(筆者翻訳)」(Barnettさん)
引用元:What happens when you get your period during a war? | The Independent
救援物資の中で、生理用品が見落とされやすい理由は、「わたしたちが生理をどのように認識しているか」に起因しているとGrocottさんは言います。
「世の中のしくみを考えるとき、生理について考える機会は少しもありません。なぜなら、私たちは生理について話さないほうが良いと教わってきたからです。(筆者翻訳)」(Grocottさん)
引用元:What happens when you get your period during a war? | The Independent
日本国内でも生理は「隠すべきもの」や「恥ずかしいもの」としてタブー視されているように、まだ多くの国では生理の問題に目を向けられない現状があります。生理がタブー視され、生理に対する社会の理解が得られない結果、十分な数の生理用品が必要な人へ届かないことにつながっているのです。
生理だけではない、性暴力や人身売買への懸念
ポーランド、ルーマニア、モルドバなどの近隣諸国へ、多くのウクライナの人々が避難を続けていることは報道されていますが、国外へ避難後に難民やその子供がさまざまな危険にさらされていることは、あまり知られていません。
性暴力の危険からトイレを我慢して感染症にかかる人も
国連女性機関とカメルーンのパートナーが実施した過去の調査によると、99パーセントの女性が「難民キャンプのトイレは安全ではない」と答えています。
とくに、夜間は女性と子供が性暴力にあう事件が発生しやすく、被害にあうことを恐れてトイレに行くのを我慢する人も多くいます。
そのような安全に使用できるトイレがない状況では生理用品を交換することさえままならないため、不衛生な状態が続いてしまいます。その結果、尿路感染症(UTIs)などにかかるリスクが高まります。
国境付近では人身売買・搾取のケースが増加
難民の国外への避難が始まって以降、ウクライナを離れたばかりの女性と子供を狙う、人身売買・搾取の報告が増えています。
国連機関やさまざまな非営利団体などが難民の安全の確保に努めていますが、こういったウクライナ難民をターゲットとした犯罪ネットワークはヨーロッパや中央アジアですでに確立されているため、解決が難しい現状があります。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の事務局長のWalyさんによると、
「戦争が長引けば長引くほど、これから新しく生活を始めようとする難民が被害に遭いやすくなります。難民が人身売買業者の手に渡ることを防ぐために、今すぐに私たちは断固とした支援をしなければいけません。(筆者翻訳)」(Walyさん)
引用元:Targeted by Traffickers - Ukrainian Refugees at High Risk of Exploitation
金銭的に不利な難民の弱い立場を利用し、人身売買業者たちはあらゆる手段をとって難民に近づこうとします。
「人身売買業者の多くが、移動手段の手配や搾取を目的に雇用の話を持ちかけます。これにより、難民たちは騙されてしまう可能性が高くなります。(筆者翻訳)」(国連薬物犯罪事務所(UNODC)の人身売買との闘いの責任者 Ilias Chatzisさん)
引用元:Targeted by Traffickers - Ukrainian Refugees at High Risk of Exploitation
2006年のUNODCのデータによると、難民女性は人身売買の主な標的であり続け、この多くは性的搾取を目的とするものでした。同時に、最近では子供の人身売買も横行していて、被害者の3分の1が子供であったことがわかっています。子供の被害者の割合は増え続け、過去15年間で3倍になっています。
ウクライナ難民の中には、家族の付き添いなしに移動する女性や子供も多く見受けられます。このような身寄りのない人たちが、人身売買業者に狙われるリスクが高いことは明らかです。
筆者より
ロシア軍による侵攻が長期化するなか、難民の生理のケアが懸念されています。
戦争中であっても、生理はとまってくれません。状況が長引けば、より多くの生理用品が必要になります。そのためには、生理用品が「生理のある全ての人にとって重要な支援物資」だと社会的に認められる必要があります。
いまも避難を続けているウクライナの人たちが、快適かつ安心できる環境で生理期間を過ごすためにも、団体や機関が協力し、安全な場所の提供、正しい生理ケアの教育指導、必要十分な生理用品の配布が行われることが望まれます。
後半の記事は、日本からできる難民支援方法についてです。 一人一人がすぐに行動できる小さなアクションから紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
参考サイト
Situation Ukraine Refugee SituationWhat happens when you get your period during a war? | The Independent
Targeted by Traffickers - Ukrainian Refugees at High Risk of Exploitation
Protect and empower Ukrainian women and girls
In Focus: War in Ukraine is a crisis for women and girls | UN Women – Headquarters
この記事を書いた人
性教育・フェムテック領域に興味津々な20代のメンバーで構成される、ピルモット編集部による記事です。