生理=女性のもの? - 必要なケアをすべての人が受けられるために知っておきたいこと
近年、生理などをはじめとして、女性のヘルスケアについて様々なムーブメントが盛り上がっています。
生理に関するタブーや社会課題を解決していくためのプロジェクトやサービスが、とくに2015年前後から盛り上がったこともあって、2015年は「生理の年」とも呼ばれています。
日本でも、「生理について話すのは恥ずかしいこと」という風潮を変えるための発信や、様々な事情で生理用品を入手できない人のための無料配布プロジェクトなどが行われていて、一度は目にしたことがあるかもしれません。
そんな世の中の流れのなかで、もう1つ注目するべき生理に関するムーブメントがあります。それは、「生理=女性のもの」とする風潮にギモンを投げかけるもの。
「え?生理は女性が持つものでしょ?」と驚いた方もいるかもしれません。しかし実は、必ずしもすべての女性が生理を経験するわけではないし、逆に女性だけが生理を経験するわけではないのです。
今回は、生理とジェンダーについてお話していきます。
女性ではないけれど、生理がある人について
トランスジェンダー男性やノンバイナリーのなかにも生理を経験する人は存在します。
あらためて、トランスジェンダーとノンバイナリーについて簡単にまとめると、以下の通り。
さらに詳しく知りたい人は、こちらの記事を読んでみてください。
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トランスジェンダー男性やノンバイナリーの中には、ホルモン治療や性別適合手術を受けることによって生理のない生活を送る方もいますが、必ずしもすべてのトランスジェンダーやノンバイナリーの方がこうした治療を受けているとは限りません。
そのため性自認が女性以外の人であっても、毎月の生理を迎える人が一定数いるのです。
現在の日本では、戸籍上の性別を変更するために様々な条件が法律で定められていますが、なかでも「不妊要件(生殖機能を永続的に欠く状態にあること)」は、事実上の断種手術であるため「自分の身体の自己決定権を侵害しているのでは」と問題視されています。
近年は、世界中で「生理=女性」とは限らないという認識が少しずつ広まり、よりインクルーシブなスタンダードになりつつあります。
「生理=女性」の問題点
とはいえ、まだまだ文化的にも「生理=女性のもの」というイメージは根強く存在しています。
生理用品のほとんどは、ピンクやお花、ハートなど、いわゆる「女性らしい」デザインで埋め尽くされています。これには、性自認が女性であっても違和感を覚えたことのある方は多いかもしれません。
実はこうした「女性らしい」ジェンダーの押し付け以外にも、「生理=女性のもの」とする問題点は数多くあります。
たとえば、職場や学校なども含めてほとんどの公共のトイレでサニタリーボックスが設置されているのは女性用トイレのみ。日常的に男性トイレを使用しているトランスジェンダー男性は、生理中にナプキンやタンポンを交換することも困難になります。
ナプキンやタンポンは、経血量の多い日であれば数時間に1回は交換する必要がありますが、それすらままならない現状があるのです。
また最近、(貧困や家庭環境など)様々な理由で生理用品にアクセスできない人が多いことが社会問題として認知されるようになってきました。「生理の貧困」というワードも頻繁にメディアで取り上げられ、自治体等による生理用品の無料配布が導入されるケースも増えてきました。
ここで「対象は女性」としてしまうと、「女性ではないけれど生理用品が必要で、かつアクセスができない」人が置き去りにされてしまいます。
トランスジェンダーの貧困率は、シスジェンダーに比べて高いという調査結果も存在します(※)。「生理=女性」としてしまうことで、必要なケアを受けられない人がうまれてしまうのです。
(※)認定NPO法人虹色ダイバーシティ、国際基督教大学ジェンダー研究センターが実施した「LGBTと職場環境に関するアンケート調査 niji VOICE 2020 報告書 | 認定NPO法人 虹色ダイバーシティ」より
そもそも、生理が女性のものであるというイメージが根強い社会では、「性自認が女性ではないのに生理を迎える」こと自体が、多くの当事者にとって精神的な負担・苦痛となりえます。
「生理のある人」という表現に対する誤解
「生理のある人」という表現の他にも、近年では従来女性のものとされてきた疾患や妊娠などについてもよりインクルーシブに発信するために「子宮のある人」や「妊娠可能性のある人」などの表現が用いられるようになってきました。
一方でこうした動きに対しては、一部で誤解が広まってしまっている現状があります。
- 「女性のことを生殖機能や身体のパーツで呼ぶのは差別的じゃないの?」
- 「女性という言葉自体を使ってはいけないの?」
しかし、今回の記事で繰り返し述べているように、「生理のある人」などの表現はけっして女性の存在や、生理のある女性を否定し差別する目的で使われているのではありません。
「生理のある人」という表現は、
「生理に関連するサービスや施設、情報などを必要とする人が、きちんとアクセスできるようにする」
「性自認が女性ではない人も含めて、だれもが生理期間を快適にすごせるようにする」
「性自認に関わらず、自分の身体をいたわり、ケアできるようにする」
といった意味があり、けっして女性という存在を否定するためのものではないのです。
逆に言えば、女性であっても様々な理由で生理を迎えない人も存在します(閉経した女性、子宮摘出をした女性などなど…)。これらの人たちは生理がなくても女性ですし、それは誰にも否定されることではありません。
まとめ
以上、女性以外でも生理のある人や、「生理=女性」としてしまうことの問題点をご紹介してきました。
生理について話すことがタブーとされる社会では、多くの人が必要な情報にアクセスすることができず、生きづらさや健康の問題を抱えてしまいます。
そうしたタブー視が、少しずつ解消されつつある今日、さらに多くの人が快適に自分の身体と向き合えるように、さらに私たちの認識をアップデートしていきませんか?
この記事を書いた人
1993年東京生まれ。早稲田大学卒業。編集ライター。大学在学中よりフェミニズム活動に参加し、署名活動やパフォーマンス、レクチャーなどを行う。ウェブメディア「パレットーク」副編集長をつとめる傍ら、ジェンダーやフェミニズムに関しての執筆や講演を行う。