フィデスレディースクリニック
松本智恵子先生
滋賀医科大学卒業。京都大学医学部婦人科学産科学教室に入局後、
大津赤十字病院、洛和会音羽病院などを経て、フィデスレディースクリニックで勤務。
産婦人科専門医、日本女性医学会会員。
フィデスレディースクリニック
松本智恵子先生
滋賀医科大学卒業。京都大学医学部婦人科学産科学教室に入局後、
大津赤十字病院、洛和会音羽病院などを経て、フィデスレディースクリニックで勤務。
産婦人科専門医、日本女性医学会会員。
「ピルを試してみたいけど、太るんでしょ?」 「副作用がありそうでなんとなく心配……」 そんな疑問をもつ女性の方も多いのではないでしょうか?
実は、ピルには直接的に太るような作用はありません。確かに、ピルの種類によっては太りやすくなるものもありますが、生理痛の軽減や避妊のためにメインで使用されている低用量ピルでは、ほぼ体重に影響しないといわれています。
とは言え、ピルを飲む前には正しい知識をつけておくことが大切。副作用をきちんと知れば、ピルにはうれしいメリットがいっぱいです!
この記事では、「ピルって太るの?」「妊娠しにくくなるの?」といったピルの疑問に細かく回答しています。
これからピルを試してみたい方は、ぜひ最後までご覧いただき、安心してピルを試してもらえればと思います。
まずは、「ピルは太る」といわれる理由と、ピルとはそもそもどんな薬なのかをご紹介します。
現在、生理痛の軽減や避妊のために用いられるのは、主に「低用量ピル」と呼ばれるエストロゲン含有量が少ないピルです。低用量ピルの場合、「ピルによって太る」という因果関係は科学的に立証されていません。[※1]
ただ、ピルは女性ホルモンに作用する薬のため、女性ホルモンの変化による影響は少なからず考えられます。
女性ホルモンの変化による影響とは、食欲の増加やむくみなど。これらは二次的に体重に影響します。
<女性ホルモンによる影響>
「ピルを飲んだら太った」という方は、ほとんどの場合、食欲増加によって食べ過ぎてしまったことや、むくみが体重増加の原因となっていると考えられます。
つまり、むくみ対策や食欲への対策を行えば、体重増加は防げるということです。
[※1]参考論文:Gallo MF, Grimes DA, Schulz KF, et al. Combination contraceptives: effects on weight - PubMed
そもそも、「ピルってどんな薬?」というのがわかっていない方も多いかもしれません。
ピルは、女性ホルモンである「エストロゲン」と「プロゲステロン」が含まれた薬です。これら2つのホルモンをとることによって「妊娠に近い状態」を作り出すため、避妊や生理痛軽減に役立つのです。
女性の身体では、主にエストロゲンとプロゲステロン、この2つのホルモンが、卵巣から毎月バランスをとりながら分泌されることで、生理が訪れるしくみになっています。
エストロゲン:妊娠に備えるホルモン
プロゲステロン:妊娠の準備をするホルモン
しかし、毎月の女性ホルモン増減や女性ホルモンの乱れによって、PMS症状や生理周期の乱れ、重い生理痛、ニキビの増加などの不調につながってしまうこともあるのです。
ピルを飲むと女性ホルモンの大きな変動がなくなり、子宮内膜も安定するためPMS症状や生理痛の軽減に役立ちます。さらに、女性ホルモンが安定している状態では排卵も抑制されるため、高い避妊効果も得られるのです。ピルによる避妊率は、正しく飲めば99%を超えるといわれています。
実は、ピルにはいくつか種類があり、種類によって用途が異なります。違いは、含まれるホルモンの量。避妊や生理痛の軽減のためだけでなく、生理日の移動に用いられたり、緊急避妊薬として用いられたりする場合もあります。
【ピルの種類と用途】
高用量ピル・・・副作用が出やすいため現代ではほとんど使われない
中用量ピル・・・生理日移動、性交後の緊急避妊、月経困難症や子宮内膜症の治療など
低用量ピル・・・避妊、生理痛の軽減、ニキビ治療、生理不順や生理過多、月経困難症や子宮内膜症の治療など
超低用量ピル・・・月経困難症や子宮内膜症の治療などに使われる、保険が適用されるピル
ミニピル・・・エストロゲンが含まれない。血栓などの副作用を出せない方向け。避妊、子宮内膜症の治療
「ピルは太る」という噂が出た背景には、1960年代に初めてピルが発売された当時の情報が影響しています。発売当初のピルは現在の低用量ピルと比べてホルモン含有量が多く、体重増加や血栓などの副作用も出やすかったのです。
しかし、現在メインで用いられる低用量ピルでは、大きな副作用はほとんどありません。それにもかかわらず「ピルは太る」という噂がなくならないのは、前述したように、食欲増加とむくみといった副作用が影響していると考えられます。
低用量ピルの場合、ホルモンの影響によって、飲み始めの1~2カ月ほどは以下のような症状が現れることがあります。
【ピルの飲み始めに現れる副作用】
とくに、ピルを飲み始めは身体が慣れていないために、副作用が出やすくなる傾向があります。3カ月を過ぎると、これらの副作用は次第に落ち着いていきます。
ここでは、体重増加の原因となる食欲増加、むくみについて詳しく説明します。
ピルに含まれるプロゲステロン(黄体ホルモン)には、食欲を増進させる作用があります。プロゲステロンは妊娠の準備のためのホルモンなので、食欲を増進させ、エネルギーのもととなる脂肪を身体に貯えようとするのです。
そのため、食欲のままに食べてしまうことで、結果として太ってしまうことはあります。
しかし、副作用は一時的である場合がほとんどのため、飲み始めの1~2カ月に食欲をコントロールできれば、太る心配はないといえるでしょう。
妊娠に備えるホルモンであるプロゲステロンには、身体に水分をため込む作用もあります。妊娠中には多くの血液を必要とするため、エネルギー源だけでなく、水分も必要です。ピルを飲む場合、妊娠中と似た状態をつくりだすために、こうした副作用が生じてしまうことがあるのです。
ただし、むくみの場合は体重増加の原因が「水分」であるため、食べ過ぎよりも対処がしやすいといえるでしょう。特に対処をしなかったとしても、むくみやすいのは初めの1~2カ月で、3カ月を過ぎるころには次第に落ち着いていきます。
ピルを飲んで太る場合、原因は飲み始めに起こる食欲増進やむくみである場合がほとんどです。 ホルモン量の変化による副作用が出るのは飲み始めの1~2カ月であるため、この期間にきちんと対策を行えば、体重にはほとんど影響しないと考えてよいでしょう。
ここでは、食欲増進とむくみの副作用が出たときの、簡単な対処法をお伝えします。
食欲が出てしまった場合も、次の3つに気をつければ、急な体重増加は防ぐことができます。
食事を摂るときは、バランスのよい内容を心がけ、野菜から食べるようにしましょう。
米やパンなど、血糖値が上昇しやすい食べ物から食べてしまうと、血糖値が急上昇します。急上昇した血糖値は急下降するため、脳が「糖分が足りない」と勘違いし、糖分を摂るように命令を出してしまうのです。
食べてもすぐに「おなかが空いた」と感じてしまうのは、そのせいです。
そのため、主食だけを食べる、菓子パンなどを食べるといった食事も禁物。間食も甘いお菓子ではなく、フルーツナッツやプレーンヨーグルトなどがおすすめですよ。
血糖値の上がりにくい食品(低GI食品)としては、以下がおすすめです。
【低GI食品の一例】
むくみ解消のポイントは、以下の3つです。
むくみとは、皮膚の下に水分がたまった状態。ピルに含まれるホルモンによる作用のほか、塩分の摂りすぎやお酒の飲みすぎ、運動不足などでもむくみやすくなります。
適度な運動や入浴で身体を温めることで、身体に流れる体液の流れがよくなり、たまった水分も排出されやすくなります。マッサージなどもあわせて行うと効果的です。
また、食材に含まれるカリウムには利尿作用があるとされ、むくみの解消に役立ちます。食事の際は塩分を控え、カリウムを含む食材を摂るようにしましょう。
【カリウムを含む食材の一例】
ほとんどの場合、ホルモン量が少ない低用量ピルでは心配するほどの副作用は現れません。体重の増加があったとしても、一時的なものです。
しかし、副作用の現れ方には個人差があり、なかには強く副作用が現れてしまう方もいます。
そうした場合、ピルの種類自体を変えてみるのもひとつです。低用量ピルに含まれる黄体ホルモンにもさまざまな種類がありますし、低用量ピルよりもさらにエストロゲン含有量が低い超低用量ピルなどもあります。
「むくみがひどい」「吐き気がひどい」など、耐えられないほどの症状がある場合は、医療機関で相談してみましょう。
最後に、ピルを服用する前に知っておきたい、よくある疑問をQ&A形式でお届けします。不安なく服用できるよう、気になる疑問を解消しておきましょう。
Q1.将来妊娠しにくくなる?
ピルを飲んでも、妊娠しやすさや赤ちゃんへの影響はありません。ピルは服用をやめるだけで、すぐに妊娠が可能になります。約90%の方が、服用をやめてから3カ月以内には排卵が再開するとされています。
Q2.生理痛が軽くなるって本当?
ピルを飲むと生理痛が軽くなるほか、経血量も少なくなります。ピルには子宮内膜が厚くなるの抑制する働きがあります。またプロスタグランジンという子宮収縮を強めたり、痛みを強くする物質を抑制します。その結果、経血量自体が少なくなり、生理痛の軽減につながるのです。
Q3.生理日の移動はできる?
医師に相談してピルの飲み方や種類を変えることで、生理日の移動が可能です。移動の仕方がわからない場合は、医療機関に相談しましょう。
Q4.避妊薬だから避妊具はいらない?
正しくピルを飲めば、避妊率は99%を超えるといわれます。しかし、ピルは性病を防ぐことはできません。性病の予防のためにも、ピルを飲んでいてもコンドームを着用するようにしましょう。
Q5.費用はどれくらいかかる?
ピルの料金の目安は、1シート(1カ月分)で2,700円ほどです。子宮内膜症や月経困難症と診断された場合には保険適用となるため、1シート800円ほどとなります。その他、受診の際は1,000~3,000円ほどの診察料がかかります。(あくまで目安です)
Q6.毎月受診が必要?
ピルは基本的に、医療機関の処方が必要です。ただし、場所によっては半年ほどまとめて処方してもらうことも可能です。なかにはオンラインで受診し、ピルを郵送してくれるところもあります。
ピルには直接的に太る効果はなく、ほとんどの原因は一時的な副作用によるものです。きちんと対策を行えば、そこまで体重増加を気にする必要はないといえるでしょう。
ピルには、女性にとってうれしい効果がたくさんあります。
【ピルの効果】
ピルには副作用もありますが、しっかり理解していれば、問題になるほどではないことがほとんどです。
【ピルの副作用】
【まれにおこるピルのリスク】
国内でピルを購入する際は、必ず医師による処方が必要です。海外からの個人輸入などは偽物もあるためおすすめできません。ピルを試してみようと思っている方は、まずは医療機関を探し、問い合わせてみてくださいね。
【参考】
ピルを飲むと太るって本当?太ると言われる理由を解説! | 女性版ネオクリニックこの記事を書いた人
三児の母・ライター。もともと教育関係の仕事に従事していたが、第三子出産を機にフリーライターとして活動開始。中学・高校の教員免許(保健体育)、幼稚園教諭免許、保育士など教育関係の資格を持つ他、メンタル心理カウンセラー資格を保持。教育や健康分野の記事執筆、絵本脚本の執筆など幅広く執筆活動を行う。
著書:「ある日突然、障害児の母となったあなたへ」